みんなの、学術レポート
専門家の知見がつまったケースレポートや
現場の人たちのリアルな発表レポート。
大学病院からの多くの患者さんを受け入れているなごみ訪問看護ステーション。セラピストや認定看護師、専門看護師が多く在籍し、病院だけでなく在宅に帰ってきてからも専門性の高い在宅ケアの実践を目指しています。
今回は「在宅環境における褥瘡ケア」の特徴や症例、多職種との連携についてご紹介します。
入院日数がどんどん短くなっている昨今、褥瘡に関しても急性期の治療が終われば、そこから治していくのは在宅や地域といわれる時代になっています。
入院中に発生して在宅へ引き継がれる
褥瘡ケアで重要なこと
- 退院前カンファレンスの重要性
- 病院での視点や治療を事前に共有して、顔の見える連携づくりが重要。
- ケアマネージャーの介入
- ケアマネージャーに早い段階で介入してもらい、ケアプランに訪問看護を位置付ける。
- 在宅サービス者の役割の共通認識
- どのような職種が、どこまでの範囲・レベルで予防や療養に関わるのか、共通認識にしておく。
在宅療養中に発生した
褥瘡ケアで重要なこと
- 褥瘡管理の方向性の擦り合わせ
- 医師やケアマネージャーとの調整を訪問看護師が行い、管理の方向性を擦り合わせる。
- 生活に組み込んだケアの指導
- 局所ケアだけでなく、ご家族や介護士、デイサービスなど多職種が実践できる生活に組み込んだ指導を行う。
- WOCナース・特定看護師の活用
- 地域のリソースとして、皮膚・排泄ケア認定看護師や特定看護師を相談役として活用することも重要。
継続的に褥瘡ケアを行う上で重要な「治療」「生活」「多職種」の3つの視点から、実例を用いて、実践的な褥瘡ケアをわかりやすく説明します。
年齢・性別:80歳代、男性 介護度:要介護4
疾患名:前立腺がん(抗がん剤治療)
退院前カンファレンスで確認した
患者の状況
- 骨転移により両下肢麻痺、膀胱直腸障害がある。
- ベッド上での生活により、仙骨部褥瘡が生じる。
- 創口は小さいが、ポケットは20cm以上で管理が難しい状況。
- 訪問診療はせずに通院を選択。受診頻度や緊急時対応とその方法について確認。
- 「褥瘡D3」となり特別訪問看護指示書をいただき、医療保険介入をする。
- 訪問看護以外のサービスがないため、現在は妻の介護負担が大きい。
褥瘡の経過
退院後、ある程度落ち着いたところでポケット切開で入院する予定だったため、切開手術までは褥瘡部の感染対策を行う。ポケット切開後はバイオフィルムを管理することで、スムーズな治癒につながった。
毎日、様々な職種による訪問が重なり、どうしても気を遣ってしまうことが妻の心理的ストレスに。対応や介護のねぎらいを伝えながらサポートすることを意識した。
-
退院後
感染を起こさないように、ポケット洗浄を重点的に管理。
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退院3週間後
ポケット切開1泊入院。切開後、ぬめりや滲出液の量が増加し、病院と連携。
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ポケット切開
1週間後バイオフィルムの管理が始まる。一時的に毎日2回訪問看護に入る。
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ポケット切開
62日後受診した際、医師に処置の成果を認められる。
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ポケット切開
98日後回復スピードが速く、順調に治癒に至る。
医療・介護状況
月2回の通院・週7日の訪問看護の介入
週1日の訪問リハビリ開始
週1日の訪問入浴開始
褥瘡ケアの方法
■ ガーゼの観察とポケットの洗浄を徹底
ガーゼの観察では、裏をしっかり見て、その時の匂いや量、創面のぬめりを確認し、写真を撮って電子カルテに記録していきます。
ポケット切開前はシリンジと吸引カテーテルで洗浄を行い、切開後はガーゼとスワブでの擦式洗浄でぬめりを取り除きます。
訪問看護師ができるメンテナンスデブリードマンを実施することで、バイオフィルムの管理が可能となります。
POINT
特別訪問看護指示書(特指示)の活用
医師が頻回に訪問看護が必要だと判断した場合に発行できる「特別訪問看護指示書」を活用することで、指示日から14日間×月2回交付により28日間の集中的な褥瘡管理が在宅でも可能に。
さらに、特指示期間中は介護保険ではなく医療保険の適用対象となるため、週7日間ケアに入っても患者さんの費用負担を軽減できる。
POINT
退院後訪問指導料の活用
今回の事例では、訪問看護師が急性期病院と実際に電話・メールなどで連携を行った。
訪問看護師からは、在宅での療養状況や褥瘡の状況、特指示の依頼を行い、病院からは、受信後に治療方針やポケットの管理方針の共有、在宅でのケアに対するフィードバックをいただいた。
連日の処置により褥瘡治癒に至ったが、再発予防と排便ケア、服薬管理にて在宅療養を継続している。
褥瘡ケアに役立つアイテム
褥瘡予防や褥瘡ケアが必要な患者さんを担当する訪問看護師が持参するアイテムは、日本褥瘡学会のガイドラインに沿って、誰でも観察が容易にできること、ある程度安価で継続可能な材料であること、創傷治癒のための湿潤環境を維持できるものを選びましょう。また、寝たきりの方も非常に多いので、予防の段階からエアウォールふ・わ・りを使用して摩擦予防をすることで褥瘡を防げます。
訪問看護師が持参する三種の神器
- エアウォール
ふ・わ・り
(ポリウレタン
フィルム) - 非固着
ガーゼ - ワセリン
■ 現場で活躍するエアウォールふ・わ・り
- ・褥瘡の予防から治療まで幅広く使える。
- ・透明で皮膚の観察が容易にできる。
- ・貼付時の違和感や剥離刺激も少なく、皮膚に優しい。
在宅環境で褥瘡ケアをする上で、さまざまな組織に属している医療者やケアマネージャーとの関係性が重要になってきます。褥瘡・創傷ケアの管理に必要な創傷被覆材や衛生材料の安定した供給にも、訪問看護師と多職種との連携が不可欠です。
- 地域の医師と連携して創傷被覆材を提供
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診療所の医師に対して訪問看護師側から症例の写真を共有したり、創傷被覆材の提供に関する制度を説明したうえで、何故、どんな被覆材がどれだけ必要なのかを理解してもらうことが重要。そのためには診療所への挨拶、訪問診療への同行などで地域の医師と信頼関係を築くことも大切。
- 衛生材料供給ルート
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利用者家族、介護士へ購入や購入代行を依頼する際は、その人の生活環境を見て可能なことをお願いする。(ネット購入が可能か? 病院受診時に売店に行くことは? 100円均一ショップやドラッグストアなら? など)具体的な金額や商品名を伝えることも重要。また、近隣に連携できる調剤薬局があれば、在宅で使いそうなアイテムを卸しておいてもらう。
- ケアマネージャーとの連携
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まずは担当ケアマネージャーの医療への理解度を見極めたうえで、医師に確認した医療の方針や利用者の療養状況を、看護師が橋渡し役となって共有・報告し、ケアプラン作成に役立ててもらうことが重要。例えば特指示期間中と褥瘡治癒後では使える介護保険の単位数も変わってくるため早期から打ち合わせを行ったり、治癒後も再発予防のために医療の視点を継続してもらえるよう働きかける。
在宅環境における褥瘡ケアでは、在宅チームで顔を合わせて治療の方向性を確認することが大切です。何を目指すかは医師の治療方針も重要ですが、利用者さんやご家族の意向も踏まえて総合的に判断する必要があります。そして、在宅においては多職種でのチームワークが必須となります。お互いの役割を理解して働きかけていく、そのための訪問看護師の役割があると思います。
●以上の内容は、あくまで予防対策の一例として紹介するものであり、効果を保証するものではありません。
●執筆者のご所属、施設の状況、ケア方法、症例などは執筆当時(2023年11月)時点のものです。
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