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MDRPUを予防しよう。予防のための対策手順と実例 MDRPUを予防しよう。予防のための対策手順と実例

西島 安芸子 さん

西島 安芸子 さん

静岡県立静岡がんセンター 認定看護師教育課程
皮膚・排泄ケア認定看護師

東海大学医学部付属病院沼津市立病院を経て2002年開院から静岡県立静岡がんセンターに勤務。2011年皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得後、2016年4月から2019年の3月まで専従褥瘡管理者を務める。2019年4月からは認定看護師教育課程皮膚排泄ケア分野の専任教員。

近年、日本褥瘡学会では医療機器等により発生する創傷や潰瘍を【医療関連機器圧迫創傷*(Medical Device Related Pressure Ulcer:MDRPU】と名付け、従来の褥瘡と区別して位置づけ、対策を行っています。
そのような流れの中、MDRPUを発生させないためには適切な対策方法に加え、対策のための仕組みづくりと適切な運用が不可欠となります。そこで今回は当院におけるMDRPU対策の仕組みと運用例についてご紹介します。

*2023年8月31日、「医療関連機器圧迫創傷」の名称が「医療関連機器褥瘡」に変更になりました。

当院の特徴とMDRPUの発生状況 当院の特徴とMDRPUの発生状況

静岡県立静岡がんセンターは特定機能病院で都道府県がん診療拠点病院となっています。長時間手術やパークベンチ、側臥位・座位・伏臥位といった特殊体位による手術件数が多いのが特徴で、6時間以上の手術と特殊体位の件数が全身麻酔件数の58%を占めています。
また、がんの治療を行うと放射線による皮膚炎や薬物療法による皮膚障害など皮膚にかなりの影響が出てきます。それに加え、がんの進行によってリンパ浮腫が起きる場合もあり、治療によって皮膚が脆弱になるというのも当院の特徴となります。
そのような特徴のため、当院では年間平均約214件のMDRPUの発生があり、月間平均にすると約15~20件となります。有病率・推定発生率は3.7%とかなり高い数字です。内訳として多いのは弾性ストッキングと尿道留置カテーテルで、合わせると50%以上を占めています。他はドレーン類(NG、胸腔ドレーン等)酸素カニューレ、マスクなどがあります。
NPPVマスクは使用頻度が低いため全体としては1%と少ないですが、MDRPUが発生するとひどくなる傾向があります。

【 がん治療における皮膚の脆弱性 】
がん治療における皮膚の脆弱性 がん治療における皮膚の脆弱性
【 当院のMDRPUの発生状況 】
当院のMDRPUの発生状況 当院のMDRPUの発生状況

当院の特徴とMDRPUの発生状況 当院の特徴とMDRPUの発生状況

当院が考えるMDRPU対策のポイントは『スキンケアの徹底』『装着部位の観察と記録』『手術室での皮膚・排泄ケア認定看護師介入基準の設定』の3つです。

Point 01
スキンケアの徹底
皮膚が脆弱だとMDRPUが発生しやすくなってしまうため、まずはしっかりとスキンケアを行い、皮膚の脆弱性を緩和することが大切です。当院では、入院患者さんには必ず、保湿剤を持参されているかどうかを確認しています。もし、持参がない場合は購入をお願いすることもありますし、ローションタイプの保湿剤の処方を依頼するなど徹底した対応を行っています。
Point 02
装着部位の観察と記録

当院では手術目的で入院された方に対して必ずMDRPU予防のための看護計画を立案するようにしています。その中で毎日の皮膚の観察や清潔ケアに関すること、発生時の初期対応についてあらかじめ計画を立てます。また全身麻酔を受ける90%以上の人が弾性ストッキングを装着することになるため、患者さんやご家族への指導も行っています。
また必ず毎日観察する習慣をつけるために、カルテの観察項目の一部に弾性ストッキングの使用の有り無しや、装着部位の発赤の有無を組み込んでいます。当院ではこのような仕組みを作ることで予防的なケアと早期発見に努めています。

■静岡がんセンターのカルテの一部
静岡がんセンターのカルテの一部
Point 03
手術室での皮膚・排泄ケア認定看護師
介入基準の設定

当院では開院以来、手術室での褥瘡発生はほとんどありませんでしたが、ここ2~3年ほどは治療法の変化などにより年10件程度の褥瘡が発生するようになりました。そこで改めてオペ室の看護師と協力して皮膚・排泄ケア認定看護師の介入基準を設定しました。
BMI18以下か35以上で2時間以上の手術を受ける患者さん、もしくは特殊体位(側臥位、伏臥位、座位)で6時間以上の手術を受ける患者さん、また、体位は関係なく、10時間以上の手術を受ける患者さんに関しては、術前訪問した手術室の看護師から手術前日に皮膚・排泄ケア認定看護師に連絡が入るような仕組みにし、褥瘡予防の対策を一緒に考えて、入室時から介入を実施しています。

手術室での皮膚・排泄ケア認定看護師介入基準の設定 手術室での皮膚・排泄ケア認定看護師介入基準の設定

発生時の対応 発生時の対応

MDRPU発生時は、必ず皮膚損傷報告書を記載するようにしました。今まではインシデント・アクシデントで深い創傷になった場合は報告があがってきておりましたが、それ以外はなんとなく見過ごされていました。 そこで、そういったことがないようにしっかりと原因を突き詰めて対策をしようという事で医療安全管理室の管理官と一緒に状況を踏まえて運用方法を考えました。

インシデント・アクシデントの報告システムに下の写真のような画面を追加し、MDRPUの場合はこちらにチェックを入れると、どういった医療機器が原因なのか?というのが表示されるようになっています。そのうえで創傷の深さまでを記載してもらうようにしています。
これを入力するとすぐに医療安全管理室と褥瘡専従管理者に報告が上がってくるようになっており、どういったMDRPUが発生しているかを把握することができます。また当院の場合は、同時に担当の皮膚・排泄ケア認定看護師にも連絡が入り現場に確認に行く仕組みになっております。

■インシデント・アクシデントの報告システムに追加されたMDRPUの報告フォーム
インシデント・アクシデントの報告システムに追加されたMDRPUの報告フォーム

クッションドレッシングココロールを用いた対策事例 クッションドレッシングココロールを用いた対策事例

NPPVマスクによる
圧迫の軽減
NPPVマスクによる圧迫の軽減

フルフェイスマスク装着後1日で鼻根部に皮膚損傷が発生。ハイドロコロイド材を貼付したがすぐにゲル化してしまう。マスクは継続のため皮膚損傷が悪化。

NPPVマスクによる圧迫の軽減

NPPVマスク使用開始時にココロールを貼付することを義務付け。ココロールは貼り方ガイドとともに各病棟に常備。その後、左写真のような深いMDRPUは発生していない。

弾性ストッキングによる
圧迫の軽減
弾性ストッキングによる圧迫の軽減

全身麻酔で8時間の手術予定。
BMIは20台だが脛骨の軽度突出あり。手術中から術後離床できるまで弾性ストッキングを着用。

弾性ストッキングによる圧迫の軽減

予防的にココロールを貼付。
離床可能になるまで継続貼付しMDRPUの発症なし。

脊柱突出部の
圧迫軽減
脊柱突出部の圧迫軽減

全身麻酔下で6時間の手術予定。手術体位は仰臥位。
軽度の円背による脊柱の突出あり。

↓

手術前にココロールを貼付。
手術終了後にココロールを剥離して皮膚の状態を確認。
発赤やMDRPUの発生はなし。

尿道留置カテーテルによる
圧迫の軽減
尿道留置カテーテルによる圧迫の軽減

手術直後、GICUにて尿道留置カテーテルの固定方法を確認。カテーテルにあそび(ゆるみ)がない場合は固定方法を変更するよう周知。尿道留置カテーテルの接続部位にはココロールを巻いてMDRPUを予防。

運用を通してのスタッフの変化 運用を通してのスタッフの変化

以上のような取り組みによって、スタッフの中にMDRPUの理解と発見する目が育ったと感じます。報告システムのおかげで、どんなMDRPUが発生しているのか?どういった部署が多いのか?といった分析をすることができるようにもなりました。これによって、各部署の褥瘡リンクナースが具体的な状況を把握できるようになり、積極的にその数値を使って対策と効果の検証ができるようになりました。
また皮膚・排泄ケア認定看護師に関しても、介入するタイミングが分かりやすくなり適切な初期対応が可能になりました。創を見ることに対して意識が向上していると感じます。
最後に、MDRPUは発生してからの治療ではなく、そうならないための予防が一番大切です。そのためにココロールのようなクッションドレッシングをうまく活用していただけるといいかなと思います。また早期発見につなげるためにはやはり看護計画によって全てのスタッフが同じことができるようになることが必要です。同時に、病院や部署によってそれぞれ特徴は異なるため、それに応じた対策を講じられるようになることも求められていると思います。

●以上の内容は、あくまで予防対策の一例として紹介するものであり、効果を保証するものではありません。
●執筆者のご所属、施設の状況、ケア方法、症例などは執筆当時(2020年3月)時点のものです。
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