みんなの、学術レポート
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佐野 加奈 さん
静岡県立静岡がんセンター 看護部
皮膚・排泄ケア認定看護師
2004年より静岡県立静岡がんセンターに勤務。
2009年静岡がんセンター認定看護師教育課程の1期生として入学後、2010年皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得。2016年からは認定看護師教育課程の講師としてMDRPUの講義を担当。
MDRPUとは、Medical Device Related Pressure Ulcerの頭文字をとったものであり、自重に関与していない、あるいは関与しているかどうか判然としないが外力によって発生し、従来の褥瘡とは発生部位も異なる創傷を指します。現代の医療安全の考えにおいては、患者さんをあらゆるリスクから守る姿勢が求められており日本褥瘡学会もMDRPUを医療安全上での重要な課題と捉え、2011年から実態調査やガイドラインの作成に動き始めています。ここでは、MDRPUの基礎対策と静岡がんセンターでこのMDRPU対策をどのように行っているのかを実例を用いてわかりやすく説明します。
MDRPUの発生要因は大きく分けて『個体要因』『機器要因』『ケア要因』の3つに分類されます。MDRPUは体と医療機器との接触部分で起こる創傷であるため、予防のためにはまずは患者さんの皮膚の状態や体の突出部などの『個体要因』と医療機器のサイズや形状などの『機器要因』をしっかりとアセスメントし、その上でケア計画を立案し、機器の適切なフィッティングを行う必要があります。
- 【 予防の基本的な流れ(治療開始前)】
上記のステップによって予防を実施したとしても、その後の管理は欠かせません。治療を開始した後はMDRPUが発生していないかをチェックし問題があれば対策を講じる必要があります。
管理は次のようなチャートとなり、MDRPUの原因となった機器の使用が中止できない場合は、損傷しやすい皮膚かどうか、使用する医療機器に対してMDRPUを発生させないための予防方法はどうしたらいいのかなど、個体要因と機器要因について考える必要があります。
- 【 管理の基本的な流れ(治療開始後)】
- 血管留置カテーテルによる
MDRPUの対策 -
血管留置カテーテルの場合、関節の動きが出やすい所は摩擦とずれが生じやすく、手の甲や足の甲などの皮下組織が特に少ない部分はリスクがかなり高まります。ロックナットの部分がギュッと上から押され続けたことでMDRPUが発生してしまいます。また、せん妄などで固定用の包帯を上からギュッと保護する時にも気をつけなければなりません。
下の写真の事例では装着時にロックナットの部分が皮膚を圧迫しないように滅菌済のクッションドレッシング『ココロール カテ用』を挟んでから対応しました。リスクが高い場合には予防的な対策をとることでMDRPUの発生を回避することができるため、どのような部分にできやすくて、どのようなものを使えば効果的に予防できるのかということも考えていく必要があります。またクッション材を使うことも大事ですが、チューブの固定方法も重要です。下左図のような方法で固定すると、上からテープで押されてチューブと皮膚の接触部分に強い圧迫が加わります。固定も弱くなる上に、MDRPUの発生頻度も高くなってしまいます。
右下図のようにしっかり『Ω留め』することをお勧めします。『Ω留め』ならテープとチューブの接着面積が多くなり固定力が増す上に、少し遊びができることでチューブと皮膚が接触せずにチューブによる圧迫を与えないという効果があります。
- NPPVマスクによる
圧迫の軽減 -
下の写真はクッションドレッシング『ココロール』を使用したNPPVマスクの圧迫軽減の事例です。マスクと固定ベルトが当たる部分に、直接貼って除圧を図りました。ここで注意すべきはNPPVマスクはどうしても湿潤環境に陥りやすいという点です。皮膚の脆弱な方の場合はテープの粘着による皮膚損傷を避けるために機器側にクッションドレッシングを貼り付けるなどの工夫が必要です。
大切なのは医療機器を装着するすべての患者さんにMDRPUが発生する危険性があることをまず理解することだと思います。そして すべての医療者がMDRPUに対する認識を持って、多職種でMDRPUの予防と管理に取り組む必要があります。
MDRPUは予防できる損傷なので、その医療機器はその患者さんにとって本当に必要かどうかをこれからもチームで考えていきたいと思います。
●執筆者のご所属、施設の状況、ケア方法、症例などは執筆当時(2020年3月)時点のものです。
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